浜田浄展

2010年5月8日(土)-5月17日(月)

会場:8F 枝香庵

Work81-12-3浜田浄1981シルクスクリーン

作品(B)浜田浄2010油彩

20-A-8浜田浄油彩

◎情感と気韻をたたえた絵画劇

 人それぞれの個性がそうであるように、美術家の資質もまた、彼が過去から受け継いだDNAと、いま生身を置いている世界から噴射される時代性とによって織り成されるといっていい。浜田浄の場合、その美術家としての資質を決定づけたのは、まだ美大生であった1950年代後半から1960年代初頭にかけてと思われる。
 まさに60年安保をはさむ戦後最大の政治的動乱期であり、かつその熱波を受けて、社会においても文化においても既存の価値観が激しく揺さぶられた時代。美術においては、美術評論家の東野芳明が「反芸術」と名づけたように、若い美術家の多くが絵画の否定を標榜し、物質や身体を駆使して破天荒な表現を繰り広げた時代として有名である。等しく既成観念を疑っていた浜田浄がそんな時代の熱に浮かされても不思議はなかったはずだが、しかし、たぶんもう一つの資質が彼を絵画に踏みとどまらせた。絵画にはまだ掘削し得ない可能性の鉱脈が残されている、と念じてやまないようなDNA的資質が。
 もちろん既存の教典を反故にした以上、その鉱脈は自前の論理や作法によって探られるほかなかった。ある意味でその探究姿勢は、いかにして近代西欧絵画の呪縛から脱するかの命題を課せられた戦後アメリカの画家たちとも、通じるところがあったのかもしれない。とはいえ、その中の代表格で一貫して短形の色彩面による構成を持続させたマーク・ロスコと対照すれば、浜田浄の軌跡はいかにも多彩な変化と展開ぶりを印象づけてやまないだろう。なぜなら彼は何が絵画を成り立たせ得るかを確かめるために、色彩や線、形態といった美学的要素にとどまらず、塗る、重ねる、削る、引っ掻く、集積する、反復するなどといった人間の基本的な行為一つ一つの次元にまで立ち戻って点検し、それぞれをシリーズ化させたからである。たとえば初期の「Work79-C-7」では、最小限の色彩や形象で何を描き得るかが突き詰められている。闇を切り裂く一閃の光にも似た、静寂にして緊張感のみなぎる一作だ。
 対して、おびただしい円い点痕が集積した「作品(B)2010」は、浜田浄の現在の関心のありかを示す。先端に朱や赤、黒の絵の具を乗せたペインティングナイフで描かれたものだが、画面の奥から光がじわじわとにじみ出してくるかのような感慨を誘う。その点では、オレンジや黒を地層のように塗り重ねた画面をナイフや鉤で掘り返し、色彩のまだら模様をつむぎ出した1980年代後半のシリーズと対をなす作品でもあるだろう。ほかに紙に鉛筆をごしごしと塗り込み、黒い密集塊と白地とがせめぎ合うダイナミックな空間を現出させた1980年代前半の作品も見逃せない。ここでだれもが目撃するのは、異なる物質(紙と鉛筆)同士の出合いが絵画に変容するスリリングな瞬間である。現代にあっても、絵画の可能性を問う真摯な取り組みは途絶えたわけではない。だが浜田浄のように、画論の観念的図式としてではなく情感たっぷりと、かつ深々とした気韻をたたえて描き切った者は果たして何人いるだろうか。

三田晴夫(美術ジャーナリスト)

浜田浄(はまだきよし)


1937高知県に生まれる
1961多摩美術大学油科卒業


個展

1964おぎくぼ画廊(東京)
ルナミ画廊(東京)
1966夢土画廊(東京)
1971シロタ画廊(東京) '72 '77 '11
1975村松画廊(東京) '76 '77
1978コバヤシ画廊(東京) '85
1979ギャラリーモリス(東京)
椿近代画廊(東京) '85 '87
1980ギャラリー葉(東京)
1982かねこ・あーとギャラリー(東京) '83 '86~'88 '90~'01 '03 '04 '06 '07 '09
高知アートギャラリー(高知)
1983ギャルリーユマニテ(名古屋)
1984日辰画廊(東京)
1989養清堂リフレクション・ギャラリー(東京)
1995中村市中央公民館大ホール(高知)/ギャラリーおおひら(高知)
ぎゃらりー由芽(東京) '96 '04 '11 '14
1996ギャラリーYOU(京都) '97
湘南台画廊(藤沢) '98
1998ギャラリークリヨン(東京)
199923ギャラリー(東京)
アトリエUNO(東京)
2005ギャラリーA0(神戸) '08 '13
アトリエ倫加(高知)
2006「土火」現代美術(東京)
2009ギャラリーAmano(山梨) '10
Shonandai MY Gallery(東京) '11 '12
2010ギャラリー枝香庵(東京) '12 '13 '14 '17 '21 '23
2014ギャラリー川船(東京) '15
2015練馬区立美術館(東京)


グループ展

1964国際青年美術家展 ヨーロッパ・日本展(西武百貨店 東京) '77(東京都美術館)
1975ジャパン・アート・フェスティバル(上野の森美術館 東京/メルボルン) '76(上野の森美術館 東京/ロサンゼルス) '81(上野の森美術館、東京/ロンドン)上野の森美術館賞受賞
1976現代日本美術展(東京都美術館 東京/京都市美術館 京都) '77 '79ブリヂストン美術館賞受賞 '81東京国立近代美術館賞受賞
1977マイアミ・グラフィックス・ビエンナーレ(フロリダ)買上賞受賞
日本現代版画コンクール展(大阪府民ギャラリー 大阪)佳作賞受賞
1978クラコフ国際版画ビエンナーレ(ポーランド)クラコフ美術館賞受賞 '80 '84
1979リュブリアナ国際版画ビエンナーレ(ユーゴスラビア)
21人の日本現代版画展(クリーブランド美術館 アメリカ)
19801980年日本の版画(栃木県立美術館 栃木) '85
1981第一回西武美術館版画大賞展(西武美術館 東京)優秀賞受賞
大阪府民ギャラリー受賞作家展(大阪府民ギャラリー 大阪)
1982所蔵品による開館30周年記念展 1.近代日本の美術(1945年以降)(東京国立近代美術館 東京)
かねこ・あーと82展―6人のドローイング(李禹煥、松谷武判、浜田浄、菅木志雄、真板雅文、川俣正)(かねこ・あーとギャラリー 東京)
1984今日の美術・収蔵作品展(東京都美術館 東京)
1985現代美術アートフェア'85(セントラル美術館 東京)
1986現代の自と黒(埼玉県立近代美術館 埼玉)
5人の作家による白と黒展(川俣正、北村亝、菅木志雄、松谷武判、浜田浄)(かねこ・あーとギャラリー 東京)
1987近代日本の美術:常設展示(東京国立近代美術館 東京)
1988グレンヘン国際版画トリエンナーレ日本現代版画特別展(スイス)
1990CROSS ONE 90(鴫剛、ゴトウシュウ、浜田浄)(椿近代画廊 東京)
1991線の表現 眼と手のゆくえ(埼玉県立近代美術館 埼玉)
1993収蔵作品展・リアルな美術・幻影の美術(東京都美術館 東京)
1994現代美術センター 20年の軌跡 コンクール受賞作品展(大阪府立現代美術センター 大阪)
国際コンテンポラリーアートフェア'94(NCAF)(パシフィコ横浜 横浜) '97(東京ビックサイト 東京) '99(東京国際フォーラム 東京) '01
1996特別展 版画の1970年代(松涛美術館 東京)
19983人の版画とドローイング(菅木志雄、松谷武判、浜田浄)(かねこ・あーとギャラリー 東京)
2003高知の美術150年の100人(高知県立美術館 高知)
あるサラリーマン・コレクションの軌跡―戦後日本美術の場所(周南市美術博物館、三鷹市美術ギャラリー、福井県立美術館)
2004韓国国際アートフェア(KIAF)(韓日) '05
2006アートとともに・寺田小太郎コレクション(府中市美術館 府中)
ブラック&ホワイト―黒のなかの黒(東京オペラシティーアートギャラリー 東京)
2012国際アートフェア kunstart2012(イタリア)
コレクション展 高知の戦後美術(高知県立美術館)


パブリックコレクション
東京国立近代美術館、東京都現代美術館、クラコフ国立美術館、栃木県立美術館、アーティゾン美術館、シカゴ美術館、高知県立美術館、練馬区立美術館、府中市美術館、岡崎市美術博物館、三鷹市美術ギャラリー、町田市立国際版画美術館、白木谷国際現代美術館、東京オペラシティアートギャラリー、クリーブランド美術館、大阪府立現代美術センター、ニューサウスウェールズ州立美術館

浜田浄