今日の絵画におけるもっとも真摯な問いかけは、「画面」すなわち2次元から自己検証的な距離をとりつつ、それを反問することでしかありえない。今回、作品の画像だけを目にすると、守美音が提示しているものは、旅先で出会った日常的なモチーフの、奇妙に力強い線による色付きのデッサン以外の何ものでもない。ところが、実際は、それらはキャンバスを支持体として、事物のかたちをワイヤーでなんとかなぞった、透明なレリーフ状の構造物とキャンバス上の彩色を合体させた、いわば錯覚的作品である。線とは違う意味で御しがたいワイヤーとの「格闘」から生じる、どこか偶発的な独得の緊張感(奇妙さの所以)―これこそは、1990年代末に堅実な抽象画家として出発し、さまざまに「実験」を重ねてきた守美音の、もっとも先端的な成果であろう。 そうした「実験」の一つとして記憶に新しいのは、支持体に絵具を生クリームを絞り出すようにして、やはりレリーフ状に盛り上げることで形象を実現した、ほとんどオブジェとも言える一連の、ちょっとケーキのような作品である。どうもこの画家は「絵画=2次元」というイデアルな等式を鵜呑みにしたくないらしい。これはモダニストの正しい姿である。
美術史家 本江邦夫