存在の気配をとどめようとした「逝ってしまってわからない」1983. 「遠い喧噪」1990. 「時の封印」シリーズ1993~4. 夢に出てきた記憶の痕跡をたぐり寄せた「Long Dreaminess~長い夢」1997. など。 記憶というテーマは長年色々な形で作品の中にありました。
そんな中、一昨年秋から昨年末、白石一文さんの「記憶の渚にて」の挿絵を描く機会を頂いて、その壮大な小説世界に幸せにも浸りながら、人間の記憶という不思議な物にあらためて向き合わせて頂きました。
記憶は過去を想うだけの物ではなく、明日への扉を開ける事もある…
そんな事思いながら描いた「記憶の渚にて」挿絵原画(後半)約160枚と、新作タブロー10数枚を、ぜひご高覧ください。
井上よう子
井上作品の根底にある二つの特徴は、青=ブルーへの拘りと、どこにも緩みのない凛とした完成度にある。命あるものは必ず逝く。その哀切を抱きながら人は生きる。しかし、また命は形を変えて再生する。作品に漂う「不在」の気配は、自らの慰藉を超えてやがて、存在への感謝へと転化されていく。
2002年の「天国に近い場所~and he has gone」を機に、井上は、若き日の「For…From…」から、新しく「The way to Bright Ocean」などの世界へ自らの体験を超え、靄(もや)の中から抽出された「道=希望」を見つめるようになる。2005年シスメックス・ソリューションセンターの壁画「海・光・風」(3m×92cm)がその結実でした。2008年には第一線で活躍する女性画家に送られる亀高文子記念―赤艸社賞を受賞、企業や学校などのアート・プロジェクト、ホスピタル・アートなどにもたびたび選ばれ、4度、デンマークにも渡った。
そして後藤正治(ノンフィクション作家)の表紙装画、白石一文の挿絵をへて、新聞連載小説「記憶の渚にて」のリアルな体験が否応なしに井上よう子の世界を拡げ、作品に強度を与えた。
この心の旅路をご覧いただければうれしい。
ギャラリー島田 島田誠
井上よう子
1983京都市立芸術大学 大学院修了
1985茨木市展 市長賞
2004前田寛治大賞展 佳作賞
2008兵庫県芸術文化協会より 亀高文子記念赤艸社賞
現在、大手前大学・NHK文化センター神戸教室講師、 ’14 ’15県展(兵庫県立美術館)審査員、
‘14.10~ ’15.12直木賞作家・白石一文氏の連載小説「記憶の渚にて」(東京・中日・西日本・北海道・神戸新聞夕刊)に挿絵担当。
■「記憶の渚にて」-著名な作家が遺したメモから始まる物語は、予想のつかない展開を見せてゆく。場所を変え、時代を超え、読者を記憶への思考の迷路にいざない、そしてその謎 を解く旅の果てに様々に絡みあった糸が繋がって…直木賞作家・白石一文氏が10年の構想を経て新聞連載された壮大な物語。2014.10~2015.12東京・中日・西日本・神戸・ 北海道新聞夕刊に連載、(株)KADOKAWAから6月に単行本、7月に電子書籍刊行(電子書籍には井上よう子挿絵20点掲載)