平澤重信展

閾(イキ)

2016年6月15日(水)-6月22日(水)

11:30~19:00(日曜日、最終日は17:00まで)

会場:8F 枝香庵

平澤重信2016油彩M40

北から平澤重信2014油彩F20

夕暮のはなし平澤重信1999ミクストメディア51.5x72.9cm

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変幻多彩な空間生成劇

 周知のように、自分の「目に見えるものしか描かない」としたクールベの態度に象徴される近代絵画を「網膜主義」と罵倒したのは、かのマルセル・デュシャンである。近代絵画は、ひたすら「見えるもの」の描出に腐心するあまり、絵画が本来的に有していた「精神性」や「哲学性」を喪失してしまった、というのがデュシャンの言い分であった。その意味では、20世紀序盤のシュルレアリスム絵画や抽象絵画も、「見えないもの」を描くべしとしたデュシャンの認識なしには出現し得なかったであろう。いや、そのような「網膜主義」の克服は、絵画の新地平を切り拓くうえで、21世紀の今もなお本質的な課題であり続けているように思われる。その意味において平澤重信も、又、すぐれてプロブレマティック(問題提起的)な絵画制作を余儀なくされた「現代の申し子」にほかなるまい。  とはいえ平澤の問題意識は、もはや20世紀前半の「見えるもの」や「見えないもの」という二元項を突き抜けて、はるかな絵画の根源的地点へと到達している。なぜなら平澤の作品は、つねに二次元平面性という絵画を成り立たせる根本構造の問い直しを、その画面自体に、主題として内在化させてやまないようにも見えるからだ。そして、その根本構造に注がれた視線は、物理的には限りなく薄い二次元平面にいかにして奥深い空間を受胎させるか、という画家の実践作業にもおのずと連結されざるを得ないだろう。従来にも増して、そうした空間性の比類ない深化を際立たせてやまないのが、今回出品された絵画群ではなかろうか。  たとえば《閾》と題した縦長の作品を見るといい。そこには、茫々たる白霧に覆われたかのような画面に、左右逆向きの二羽の黒い鳥が描かれている。しかし、たったそれだけの対置によって、画面に無限の距離感や空間感がかもし出されるのは、まさにミステリアスというほかあるまい。そのような比類ない知覚経験は、神秘的な青の線描群が際立つ《北から》の、猫と建築との対置が醸し出す心理的な距離からも同様に見て取れるだろう。他方、横長画面の《気にしないで》は、一切のイメージを凝集させたかのような赤や黄、青などの夥しい線の群れによって全面が覆い尽くされる。その線描群は乱舞しながら重なり合い、生命体さながらの、脈動してやまない空間を織り成していく。それはまさしく、息をのむような視覚劇といっても過言ではないはずである。

(美術ジャーナリスト・三田晴夫)

平澤重心(ひらさわじゅうしん)


1948長崎市に生まれる
1971日本大学農獣医学部獣医学科卒業


■個展は130回を超える ギャラリー枝香庵(2014年)他


■主なグループ展

1968“自由美術展”以降毎年(東京都美術館・国立新美術館)
1981“シェル美術賞展”(東京セントラル美術館)
1981“精神の幾何学展”(東京都美術館)
1983“現代具象秀作展”(81美術館)
1984“多摩の作家250人展”(たましんギャラリー)
1981“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1985“安井賞展”(西武美術館)
1981“現代日本美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1981“アートフェア・85”(東京セントラル美術館)
1986“安井賞展”(西武美術館)
1981“現代形象展”(ストライプハウス美術館)
1981“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1987“多摩秀作美術展”(青梅市美術館)
1981“現代日本美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1981“現代形象展”(ストライプハウス美術館)
1981“東京セントラル美術館油絵大賞展”(東京セントラル美術館)
1988“昭和会展”(日動画廊)
1981“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1989“人間賛歌大賞展”(北里メディカルセンター)
1981“東京セントラル美術館油絵大賞展”(東京セントラル美術館)
1990“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1991“文化庁現代美術選抜展”(北網圏北見文化センター美術館他)
1981“現代日本美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1992“昭和会展”(日動画廊)
1994“安井賞展”(有楽町アートフォーラム)
2002“多摩の作家絵画展”(たましん歴史美術館)
2005“アート2006干支展”(あさご芸術の森美術館)
2008“ねこまみれ―吾輩はネコキチである―”(カスヤの森現代美術館)
2010“山本冬彦コレクション展”(佐藤美術館)
1981“ストーリーテラーズ―小説と絵画―展”(高島屋日本橋店6F美術画廊)
2011“はじめ展”以降毎年(ギャラリー枝香庵)
2012“公募団体ベストセレクション2012”(東京都美術館)
2014“東京―バルセロナ現代アート展”(センター・シビック・パティ・リモーナ)

平澤重信