「より純粋な絵画」から「絵画それ自体を思考する」ことで始まった色彩と形態の終りなき戦いを一人黙々と続ける野中さんの抽象画の世界とは、何よりもまず素材に対する鋭敏な感覚によって成立している。
観念的な構図、空間を頭や言葉で考えるのではなく、あくまでも具体的に、意味とは無縁の物質の感覚として、絵画を成立させようとする試みなのだ。
視覚、触覚の延長である目と手によって和紙と顔料が引き起こす一瞬の事件を逃さず直裁に定着させること、この連続はやがて色彩の深さ、軽さを生み、空間を派生させる。
癒しの為のここちよさではなくあえて単純で無骨な拮抗する力の衝突を求めようとする野中さんの作品には真の繊細さ、優しさが隠れている。
銀座の真中にありながら風や光を感じる事が出来る素敵な空間「枝香庵」で野中さんの作品と出会えるのが楽しみだ。
和田章一郎(旧ゆーじん画廊主)