平澤重信個展

風景のあしあと

2024年2月2日(金)-2月12日(月)(水曜日は休廊)

11:30~19:00(日曜日、最終日は17:00まで)

会場:7F 枝香庵Flat/WEB

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展示作品

冬ざれ
平澤重信

30x126cm
¥1,000,000(税込)

夏が過ぎ去っていく
平澤重信

30x126cm
¥1,000,000(税込)

不協和音
平澤重信

F120
¥3,000,000(税込)

不安定な閃き
平澤重信

F120
¥3,000,000(税込)

立ち尽くす時間
平澤重信

F120
¥3,000,000(税込)

はるか
平澤重信

S3
¥240,000(税込)

残響
平澤重信

F6
¥120,000(税込)

風の中で
平澤重信

14x12cm
¥40,000(税込)

ドローイング
平澤重信

37.5x53.8cm
¥120,000

ガンバレよ
平澤重信

F0
¥100,000(税込)

Work
平澤重信

F3
¥160,000(税込)

晴れる空より美しいもの
平澤重信

P3
SOLD

作品詳細

緑の気息
平澤重信

29x20cm
¥140,000(税込)

誰かいますか
平澤重信

¥240,000(税込)

そばに一匹のNEKOがいる
平澤重信

SOLD

作品詳細

理不尽に満ちた時代に、「弱い光」の尊さを叫ぶ

「20代、30代の頃は、くっきりはっきりした色や形の、油絵らしい『強い光』の絵を描いていたけど……リアリティを感じなくなっちゃった。むしろ今にも消え入りそうな『弱い光』、それに意識が傾いちゃって。そうすると色も形もどんどん消えていっちゃうんだけど、それでいいんじゃないのかな、って(『月刊美術』2018年8月号)」

 平澤重信が「弱い光」として描くのは、何気ない日々におけるささやかなものたちとの一期一会だ。例えば、路傍の花、空を舞う鳥、通り過ぎる自転車、公園に集う老若男女、横切る野良猫。それらが気づかせてくれる季節の移ろい、空の明るさ、風の冷たさ、肌の温もり、生きることの哀切。 いずれの感触もあまりにさりげなく、次の瞬間には記憶の彼方に遠ざかってしまいかねないほどにおぼろげだ。それを表現するために、画家は描いては消し、また描いては消し、さらにまた描いては消し……を幾度も幾度も繰り返す。するとその工程の中で、うっすらと残った筆致や色彩、あるいは描かれたものの気配などが積み重なって、やがてえもいわれぬ奥行を生み出していく。

 ひとつひとつの「弱い光」はいかにも儚いが、だがだからといって決して無に帰すわけではない。心を微かに揺らす絶え間ない出会いの残滓が、人生の地層にこの上なく豊かな厚みを成していく、ということ。その真実の顕現に、平澤作品の本懐がある。

 ただ、その最新の制作は、近年のそれとはずいぶん趣を異にする。モチーフも制作の工程も基本的には変わらないのだが、その筆致はどこか荒々しく、色彩も激しく明滅する。中でも《夏が過ぎ去っていく》《残響》《はるか》などは、白地を主体とした構成なのも手伝ってそうした特徴がいっそう際立ち、観る者の気持ちを波立たせる。まるで、先の真実に気付いてほしい、と言わんばかりに。

 実際、画家は今回の制作中に「画面と向き合いながら、感覚としての体温の変化があった」という。それはきっと、激震する時代の混沌からとめどなく湧き出す理不尽が、真っ先に「弱い光」へとその矛先を向け、今にも覆いつくそうとしている現実に照応している。「弱い光」が失われることは、人生の地層から豊かさが失われることに他ならない。「人間が人間らしく生きていくために芸術がある」とも話す画家は、だからこそ作品を通してその危機を声高に叫ばずにはいられなかったのではないか。使命感に満ちた作品の数々が並ぶ今展を、刮目して見届けたい。

下川拓郎(美術編集者)

平澤重信