平澤重信展

時の還送

2014年4月10日(木)-4月17日(木)

11:30~19:00(日曜日、最終日は17:00まで)

会場:8F 枝香庵

白緑の兆平澤重信2010油彩F6

NEKOの領分平澤重信1994油彩P20

Life平澤重信2011油彩103.5x37cm

油彩 新作、旧作合わせて約50点(SM~60号)

 一昨年秋から昨年初夏にかけて美術雑誌に連載された語り下ろしの中で、平澤重信は「私にとって重要なのは」と前置きして、このように言葉を継いでいた。「ずっと『日常』の時間を大切に意識して、(それを)作品のイメージとしてどれだけ膨らませて描けるか、ということに尽きるだろう」と。その言葉通り、深い基底部から響いてくる通奏低音のように画面に出没してやまない猫や犬、家屋、樹木、そして自転車といったイメージ群こそ、紛れもなく画家の意識に招喚された「『日常』の時間」の担い手たちに他なるまい。このように自己の芸術的立脚点を日常の意識化に据えたという意味では、画家・平澤と、かの便器や自転車の車輪をオブジェ化してみせた前衛の元祖マルセル・デュシャンの間に、一体どれほどの隔たりがあるだろうか。
 今回の個展に先立って出品作の一部を見る機会を得たのだが、そこにも、淡い光を含んだ虚空を背に舌なめずりをしながら、こちらを振り向いた猫の絵が含まれていた。いかにも猫らしいしぐさで振り返ったその姿は、江戸錦絵の主題めかしていえば、見返り美猫といったところになろうか。しかしそれ以上に、ここでは振り向いた猫と、それをこちらから眺める画家との間に横たわる心理的な距離こそが重要である。たとえばそれは、彫刻家アルベルト・ジャコメッティをして「こちらが近づいたと思うと向うが遠ざかってしまう」と慨嘆せしめた、対象との距離、つまりは対象との関係意識の問題でもあるからだ。実体的な距離以上にそれは、平澤の絵画空間を生成させる上でも重要な契機をなしたに違いない。
 もう一つ、美術資料収集・研究家で平澤絵画の理解者でもある笹木繁男が、「汚し」の極意とも称した近年の特質にも触れておこう。それは画面を覆いつくさんばかりにひしめき合う、線片や記号片の群れである。事前に見た中では、トレードマークの自転車すらもそれらの一つと化して、線や記号の波間に漂っていた感を誘う作品が強く印象に残った。たとえば猫の作品を、表現が一個の対象に向けて凝集されていく<求心性>の絵画とするなら、線片群や記号片群の際立つ作品は、画面全体へと拡散していく広がりや、重力から解放されたような浮遊感からして<遠心性>の絵画とも呼べようか。この両様の表現を自在に行き来しながら、平澤絵画は今、さらなる佳境に入りつつあるようである。

2014.2.18 三田晴夫

平澤重心(ひらさわじゅうしん)


1948長崎市に生まれる
1971日本大学農獣医学部獣医学科卒業


■個展は130回を超える ギャラリー枝香庵(2014年)他


■主なグループ展

1968“自由美術展”以降毎年(東京都美術館・国立新美術館)
1981“シェル美術賞展”(東京セントラル美術館)
1981“精神の幾何学展”(東京都美術館)
1983“現代具象秀作展”(81美術館)
1984“多摩の作家250人展”(たましんギャラリー)
1981“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1985“安井賞展”(西武美術館)
1981“現代日本美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1981“アートフェア・85”(東京セントラル美術館)
1986“安井賞展”(西武美術館)
1981“現代形象展”(ストライプハウス美術館)
1981“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1987“多摩秀作美術展”(青梅市美術館)
1981“現代日本美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1981“現代形象展”(ストライプハウス美術館)
1981“東京セントラル美術館油絵大賞展”(東京セントラル美術館)
1988“昭和会展”(日動画廊)
1981“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1989“人間賛歌大賞展”(北里メディカルセンター)
1981“東京セントラル美術館油絵大賞展”(東京セントラル美術館)
1990“日本国際美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1991“文化庁現代美術選抜展”(北網圏北見文化センター美術館他)
1981“現代日本美術展”(東京都美術館・京都市美術館)
1992“昭和会展”(日動画廊)
1994“安井賞展”(有楽町アートフォーラム)
2002“多摩の作家絵画展”(たましん歴史美術館)
2005“アート2006干支展”(あさご芸術の森美術館)
2008“ねこまみれ―吾輩はネコキチである―”(カスヤの森現代美術館)
2010“山本冬彦コレクション展”(佐藤美術館)
1981“ストーリーテラーズ―小説と絵画―展”(高島屋日本橋店6F美術画廊)
2011“はじめ展”以降毎年(ギャラリー枝香庵)
2012“公募団体ベストセレクション2012”(東京都美術館)
2014“東京―バルセロナ現代アート展”(センター・シビック・パティ・リモーナ)

『ボクのじてんしゃ』
平澤重信・絵
きむらゆういち・文
絵本・童話作家。
1948年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。『あかちゃんのあそびえほん』(偕成社)、講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞などを受賞し映画化もされた『あらしのよるに』(講談社)ほか著書多数。
判型 : AB判 上製本
頁数 : 32頁
定価 : 本体1,600円+税
発刊 : 2014年3月7日
ISBN : 978-4-87586-390-8 C8771

平澤重信